真鍮について

真鍮という素材は新品の明るい輝きはもちろんですが、時とともに変わりゆくその表情にこそ、深い味わいが宿っています。

最初は、やわらかな光を放っていた表面が、空気に触れ、手に触れながら少しずつ落ち着いた金色へと変わっていきます。

その過程には、早さも効率もありません。ただ、自然のリズムに寄り添うように、静かに育まれていきます。

現代は、すぐに結果を求める時代かもしれません。けれど、真鍮の経年変化を楽しむ暮らしは、「待つ」という豊かさを教えてくれます。

傷もくすみも、すべてが生きた証。それは、単なる劣化ではなく、使い手とともに歩んできた時間そのものだと感じます。

日々の小さな変化に気づき、愛おしむこと。それは、ものを大切にする心を育てるだけでなく、自分自身の時間を丁寧に積み重ねることにもつながっていくのでしょう。

暮らしの中に、育つ美しさを。

真鍮とともに過ごす時間は、そんな静かな喜びを教えてくれます。

 
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