手仕事とミニマリズム

手でつくる、という誠実さについて

ものをつくるという行為には、数値や理屈では捉えきれない領域があります。理にかなった設計、無駄のない構造、整った仕上がり、そうした要素を一つずつ積み重ねた先に、最後に立ち現れるのはつくり手の「感覚」です。

私たちが大切にしている「手でつくる」という行為は、感情を込めることではありません。素材とまっすぐに向き合い、不要な装飾を削ぎ落としながら、どこまで精度を高められるか。どこまで静けさを保ちながら、物に芯のある強さを与えられるか。その問いに日々向き合っています。

私たちの扱う真鍮は、時間とともに酸化し、色を変え、柔らかさと深みを増していく金属です。その変化を含めて「完成」と見なす感覚は、人の営みにも似ています。始まりと終わりを決めすぎず、変化の流れのなかに美を見出す視点。これが私たちのものづくりの根底にあります。

製品はすべて実用を前提に設計されています。ただのインテリアでもアートピースでもなく、機能だけに終始することもありません。手に取ったとき、ふと意識に触れるような存在でありたいと考えています。最小限の線と面、選び抜かれた寸法とバランス。その中に宿るのは、主張ではなく「必要性から生まれた美しさ」です。

製品は言葉で多くを語らず、ただ静かに光を受け、手に馴染み、空間の一部として佇む。そして、使い手の暮らしに溶け込みながら、その存在を少しずつ育んでいきます。

作り手の思いや背景のストーリーは、表に出る必要はありません。触れたときの質感や、時間を重ねて生まれる風合いが、語らずして語ってくれることを信じています。実用性の軸の上で、美しさが静かに輪郭を持つ──その結果として生まれるのは、非常に静かなかたち。最小限の線で構成され、決して派手ではありません。けれど暮らしの中でふとした瞬間に意識を引き寄せる、そんな奥行きと静謐さを備えた存在です。

合理と感覚、構造と静けさ。その両極のあいだで、削ぎ落とすことで立ち上がる美しさを探し続ける─ことが、私たちが日々取り組んでいる「手仕事」です。

 
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真鍮について