形の外側を満たす

私たちOBJJP ARCHITECTSは、これまで一貫して、真鍮という素材の静かな力に魅せられてきました。重みのある質感、時とともに変化する表情、そして佇まいに宿る意思のようなもの。そうした「無言の存在感」をかたちにすることが、私たちのものづくりの核心にありました。

ではなぜ、その流れの中に“香り”を加えたのでしょうか。

理由のひとつは、香りもまた「見えないかたち」を持つメディアだからです。目に見えず、手で触れることもできない──けれど、確かに空間の空気を変え、記憶に深く結びつく。香りには、真鍮が持つ“静けさ”や“余白”と、どこか似た質があると感じています。

もうひとつの理由は、「時間との関係」です。真鍮製品は、使い続けることで少しずつ色を変え、光沢を失い、しかしそれゆえに美しさを増していきます。香りの体験もまた、一瞬で完結するのではなく、火を灯してから徐々に広がり、やがて薄れていく──その“時間のグラデーション”は、私たちのデザイン思想にとても自然に馴染むものでした。

そして最後に、空間の中で「香り」「光」「質感」が三位一体となるとき、より深い体験が生まれると考えました。例えばキャンドルの小さな炎が揺れ、香りがわずかに漂い、真鍮の器が静かに光を受け止める──そんな一連の風景が、使い手の感覚を穏やかにひらいていく。日常において、言葉ではとらえにくい“感覚の静けさ”を届ける手段として、香りは新たな扉となりました。

香りのシリーズは、そうした考えのもとに生まれました。それぞれの香りに、土地の記憶や感覚の断片が宿っています。真鍮製品と同じく、表面的な派手さではなく、使い手の内側にゆっくりと沈殿していくような存在でありたいと思っています。

香りを通して伝えたいのは、“静かな豊かさ”です。私たちはこれからも、素材、光、香り、それぞれが対話し合うような世界をかたちにしていきます。

 
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キャンドルという静かな時間

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真鍮について